「日本のモノ」が遠くなった ― 関税と円安が変える、在米日本人の食卓と仕送り

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「日本のモノ」が遠くなった ― 関税と円安が変える、在米日本人の食卓と仕送り

執筆: 原田朋(アメリカ在住約27年) | 公開: 2026年4月16日

この記事のポイント(3行サマリー)

2026年、アメリカで「日本のモノ」を手に入れるハードルが上がっています。日本からの輸入品に追加関税、円安は歴史的な水準が定着。送料も値上がりしました。

日本食スーパーの棚では値段が変わり、品揃えも減りました。EMSで送ってもらった箱の中身より送料のほうが高い、という話も珍しくありません。

在米約27年の中で何度もこういう波を見てきました。この記事では、いま起きている変化と、在米日本人のリアルな対応を綴ります。

EMSの箱を開けたら、送料のほうが高かった

先日、日本の知人が食材を送ってくれました。中身はカレールー、だしパック、ふりかけ、お茶。合計すると日本での購入金額はおそらく数千円。でもEMSの送料はそれを上回っていて、さらにアメリカ側で関税がかかりました。

「中身より送料のほうが高い」。在米日本人の間では、もう笑い話ではなくなっています。

日本郵便のEMS料金は2022年以降、燃料サーチャージの上乗せで繰り返し値上がりしました。2kgの荷物をアメリカに送ると、以前は3,000円台だったのが、いまは5,000円前後かそれ以上(時期・重量により変動)。さらに米国が日本からの輸入品に課している追加関税が加わります。

日本からのEMS

約27年前にアメリカに来たとき、日本の親がSAL便で段ボールいっぱいの食材を送ってくれるのが「定期便」でした。送料は安かった。いまは同じことをすると1万円近くかかる。時代が変わったな、と思います。

日本食スーパーの棚に起きている変化

アトランタにはH Martや日系の食料品店があります。最近、棚をよく見ると気づくことがあります。

まず、値段が上がっている。キッコーマンの醤油1リットルが以前の4ドル台から6ドル台に。日本のインスタントラーメン(5食パック)は3ドルだったのが5ドル近く。日本のお菓子は軒並み1〜2ドル値上がりしている印象です(2026年春・アトランタ近郊の店舗での体感)

次に、品揃えが変わった。マイナーな日本のブランドが棚から消えて、韓国や台湾の代替品が増えている。醤油の棚にキッコーマンが3種類しかなくて、隣に韓国の醤油が5種類並んでいるのを見ると、物流コストの影響を実感します。

そして、「Made in USA」の日本風商品が増えた。豆腐はアメリカ国内生産のものがほとんどになりました。味噌もアメリカ産が増えている。これは関税がかからない分、価格が安定しているから棚を確保しやすい。品質も悪くないので、気づかないうちに切り替わっている家庭は多いと思います。

「H Martに行くたびに値札を二度見する」。アトランタの日本人コミュニティで最近よく聞く言葉です。買い物カゴに入れる前に値段を確認する癖がついた、という人が増えました。

スーツケースが「食料庫」になる帰省

在米日本人なら誰でもうなずくのが、帰省時のスーツケース問題です。

日本に帰るたびに、スーツケースの半分以上が食材と日用品で埋まる。カレールー、だしパック、ふりかけ、茶葉、カップ麺、コンタクトレンズの洗浄液、歯磨き粉、文房具。お土産を入れるスペースが残らない、というのは在米日本人の「帰省あるある」です。

2026年はこれに新しい事情が加わりました。円安で「日本で買うと安い」がさらに際立っていることです。ドル円が歴史的な円安水準で推移しているので、日本の100円ショップの商品はドルに換算すると1ドルを大きく下回る。アメリカのDollar Treeが1.25ドルなので、体感で倍近い差があります。

だからといって、帰省のたびに食材を大量に持ち帰るのにも限界があります。超過手荷物料金は片道100ドル以上。航空券自体も値上がりしている。「安く買えた分、持って帰るコストで消える」という皮肉な状況が起きています。

何が起きているのか ― 数字で見る

背景を整理します。在米日本人の「日本のモノ」事情に影響しているのは、主に3つの要因です。

1つ目は関税。2025年以降、米国は日本を含む各国からの輸入品に追加関税を課しています。税率は品目や交渉の進展で変動していますが、食品・日用品・電子機器など幅広い品目が対象になっている点は変わりません。追加コストは最終的に小売価格に転嫁されます。

2つ目は円安。ドル円は2022年以降、歴史的な円安水準が続いています。日本の輸出企業にとっては追い風ですが、アメリカで日本の商品を買う側にとっては、ドル建ての価格がじわじわ上がることを意味します。

3つ目は物流コスト。EMS・航空便の燃料サーチャージ、海上輸送コンテナ料金、いずれも2020年以前の水準には戻っていません。小ロットで日本から商品を仕入れている小規模な日本食店やオンラインショップにとっては、利益が圧縮されて品揃えを絞らざるを得ない状況です。

要因 2020年頃 2026年春の体感
対日関税 ほぼ0%(多くの品目) 追加関税あり(税率は変動中)
為替(USD/JPY) 105-110円 150円台(歴史的円安水準)
EMS 2kg(日本→米国) 約3,000円台 5,000円前後+サーチャージ
日本の醤油1L(米国小売) $3〜4台 $5〜7台

※ 価格・為替は2026年春時点のアトランタ近郊での体感です。地域・店舗・時期により異なります。関税率は交渉・政策により変動します。

在米日本人が静かにやっていること

この状況に対して、在米日本人の間では静かに「切り替え」が進んでいるように見えます。誰かが号令をかけたわけではなく、それぞれが自然にやっている工夫です。

「日本のモノ」にこだわるものと、手放すものを分ける。たとえば「醤油とだしは日本製じゃないと無理だけど、味噌はアメリカ産でも十分」「インスタント麺は韓国の辛ラーメンで代用」という具合に、一つひとつ判断を変えている家庭は多いです。

Amazon.comで買える日本食材を活用する。日本食スーパーが近くにない地域では以前からの方法ですが、最近はAmazon.comで買える日本ブランドの商品が増えました。アメリカ国内の倉庫から発送されるものは関税の心配がないので、価格が安定しています。Subscribe & Save で定期購入すれば15%引きになるものもあります。

「作る」にシフトする。ぬか漬けを自分で始めた、味噌を仕込むようになった、という話をここ1年で何度か聞きました。レシピはYouTubeにいくらでもある。手間はかかるけれど、買えないなら作るという発想は、長くアメリカに住んでいる人ほど自然に出てくるようです。

ある在米日本人の方が「味噌を自分で仕込み始めたら、もう市販品に戻れなくなった。関税のおかげかもしれない」と笑っていたのが印象的でした。不便の中から新しい楽しみを見つける力は、長く海外に住んでいる人の特技なのかもしれません。

約27年見てきた視点 ― 日本との「距離」は物理だけじゃない

アメリカに約27年住んでいると、日本との距離感の変化を何度も経験します。物理的な距離は変わらないのに、為替や関税や物流の波で「近くなったり遠くなったり」する。

2000年代前半、1ドル110円で安定していた頃は、日本からの荷物もよく届いたし、帰省も気軽にできた。2012年のアベノミクスで120円を超えたとき、「日本が安くなった」と感じた在米日本人は多かった。そしていま、歴史的な円安。日本は「行くのは割安だけど、モノを持ってくるのは割高」という不思議な状態になっています。

ただ、いつもそうですが、この状況も永遠には続きません。為替は動くし、関税交渉も進む。重要なのは、「いま手に入りにくいものを嘆く」よりも、「いま手に入るもので、どう暮らしを楽しむか」を考えることなのかもしれません。

アメリカに住んで長くなると、日本のモノへのこだわりも少しずつ変わっていきます。絶対に手放せないものと、実はなくても大丈夫だったものが、はっきり分かれてくる。関税や円安は、その仕分けを強制的にやらせてくれる機会なのかもしれない、と最近は思うようになりました。

あなたにとって、「これだけは日本のモノじゃないと」というものは何ですか?

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※ この記事の内容は2026年4月時点の情報に基づいています。関税率・為替レート・送料は変動します。最新情報は各公式サイトでご確認ください。

※ 関税や輸入に関する正確な規定は、米国税関・国境警備局(CBP)の公式情報をご確認ください。